Leica M11を買った

Leica M11を買った

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写真
Published
April 20, 2024
2023年春にライカを買って一年が経った。
買った時の考えと、一年使ってみた体感を書く。
 
※前半の文章は購入直後に書いた文章。後半が最近書いた文章。
 
 

利便性を捨てる、という選択

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ライカというのは不思議なカメラだ。
現行の最新機はボディだけで140万円もするが、それだけ払って得られるカメラにはオートフォーカスすらない。何ならディスプレイすらないモデルもある。誰に聞いても「便利なカメラ」とは言わない。写りは勿論良いが、マシンスペックで比べるなら他の機種でも良いと言われる。プロが仕事の現場で使うことも少ない。
そんなカメラを、何故わざわざ高い値段を払って買うのかと聞くと「不便なのが良い」という理解できない答えが返ってくる。
自分のソフトウェアエンジニアとしての哲学は「機械でできることは機械にやらせて、人間は人間がやるべきことだけをやる」であり、今の時代ならオートフォーカスくらい機械にやらせれば良いだろうと思う。
作り手側にしても、日本のカメラメーカーが様々な企業努力で良いものを安く作ろうとしてるのに対して、ライカのこの値段はそういう努力を感じるものではなく(偏見)、良く言ってハイブランドの高級バッグを買うような行為に思えた。
 
まあ、理解できないこともない。
不便を楽しむというのは、例えばキャンプでいえば、火を起こすためにライターで火をつけるのではなく、その場にある自然のもので火をつけるような体験なのだろう。「火をつける」という結果そのものに変わりがなくとも、その体験自体を楽しむのは分かる。
しかし、自分にとっての写真は、やはり綺麗な写真を撮ること自体が目的であり、その手段は可能な限り効率的で楽なものにしたいと思っていた。
もしくは、料理で出汁の素を使わずに、自分で出汁を取るような感覚なのかもしれない。確かに、オートフォーカスではなくマニュアルで合わせた方がいい場面もある。これは一定の理があるが、とはいえ毎日毎日出汁を自分で取る気にはならなかった。
 
そんな考えが変わってきたのが最近。
先述の通り否定的な見方をしていたし興味もずっとなかったが、それでも「ライカは良い」という声が聞こえてくる。何より信頼できる写真仲間もそんなことを言っている。
特に、自分と近しいバックグラウンドを持ち、利便性を重んじる感覚も持っていそうなあきりんさんに、それでも「ライカ買わないの?」と言われて、やはりライカには何かがあるらしいと真面目に考え始めた(あきりんさんはフォトグラファー・ソフトウェアエンジニア・経営者の三足の草鞋を履く大先輩)。
 
そんなわけで色々考えて購入に至ったわけだが、正直何が良いのかはまだ分かっていない。分かっていないなりに、自分がライカに感じること、期待することを残しておこう。
 

「残すため」「伝えるため」に撮る

ベルギーに向かう列車の中で食べたパン
ベルギーに向かう列車の中で食べたパン
 
自分が写真を撮る理由は、最初のころはただ闇雲に楽しかったからで、いつからかはコミュニケーションの一つになり、綺麗な写真を撮るためになり、最近は「残すため」になってきた。
それも、ただの物理的・電子的な「情報」を残すためだけでなく「心に残すため」のような意義が強まってきた。情報を残すのはただの手段で、本当にやりたいことは、自分が感じたその瞬間の何かを自分の心に焼き付けたり、誰かにそれを伝えたり、未来の自分が思い出すためだ。
 
不便なカメラは「良いと思った瞬間」を写真に残すために、手間をかけさせる。iPhoneのカメラアプリのようにボタンひとつで記録に残すような使い方はできない。そしてその手間暇が「良いと思った瞬間」をより深く感じ、考えさせ、心に焼き付ける時間を与えるのではないか、と思う。
自分はまだその感覚が完全に分かっているわけじゃないが、今までの写真体験を思い返せば、確かにそういうことだろうなと想像できるだけの経験はしている。iPhoneのカメラよりも一眼レフで撮った瞬間の方がよく覚えているのは、きっとそういう側面がある。
 
子(あきりんさん)曰く。
CGやらAIで綺麗な画像を生成できるこの時代に、それでも写真を撮る意義を見つけ出すのであれば、それは写真の持つ「日常性」が大事なのだ、と。
日常性とは、すなわち「自分が」良いと思ったその瞬間を切り取ること。AIが生成した単なるビット列ではなく、画像の背景に「誰かの」意図や感情があること。それが写真らしさなのだと思う。
 
ライカの不便さは、そういう日常性を浮き立たせるのかもしれない。そんなことを期待して、ライカを使ってみようと思う。
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使ってみた

そんな文章を書いたのが1年前。
購入したのはLeica M11とSummilux 50mm。せっかくなので最新機種で揃えてみた。
 
さて一年間使ってみた感想はと言うと、いやまずめちゃくちゃに写りが良いんだが。マシンスペックで比べるなら他の機種でも良いとか言ってた人はなんだったのか。他のカメラで、これだけの写りが出せるのか?
一眼レフを初めて買った時は「目の前の光景を目で見る以上に美しく切り取れること」に感動したものだ。そしてそれは、キットレンズから単焦点レンズに切り替えた時とか、安い単焦点から高い単焦点にしたときとか、レンズやボディのグレードを変えるたびに同じ感動を覚えてきた。
ライカの感動はこれの最上級といったところ。空気感と質感の描写が恐ろしい。
特に質感が印象的な画を切り取ると良さが感じられる。
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撮って出しの画が美しすぎるので、PCのLightroomに取り込んで現像を行うのを辞めてしまった。自分が今撮りたいものは目の前のありのままの美しさであって、現像で余計な色をつけたくないという気持ちもある。Leica M11にはWiFi同期機能もあるので、PCを経由せずスマホに直接写真を取り込んで、Instagramのストーリーに画像を投稿するお手軽フローを最近やっている。このフローがとても楽で、写真を撮るのを気軽にさせてくれて、より楽しく写真を撮れている。
この記事の写真は全て撮って出し。質感の描写がすごい。
この記事の写真は全て撮って出し。質感の描写がすごい。
 
また、アクセサリーとしても優秀だ。
見た目がコンパクトで美しくのは勿論だが、ライカというブランド力もあるため、ハイブランドのアクセサリー的な役割も担っている。若干しょうもない話ではあるが、やはりブランドの力は大きい。高級フレンチ店でカメラを取り出しても恥ずかしくないし、なんならウエイターと会話が盛り上がるまである。ヨーロッパの街を歩いていてライカユーザーとすれ違うと「貴方もライカですか。いいですね」なんて目で意思疎通しがち。
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買う前に考えていた「不便さ」に対しては、いや普通に不便なんだがと思うし、そんなにポジティブな感想はない。オートフォーカスがないので必ず両手でカメラを構える必要があり、旅先で手が埋まっているときにサクッと撮影するのがしづらい。
しかし逆に言うと、不便なのはそれくらいで、WiFi機能などソフトウェア面はむしろ優秀だ
オートフォーカスについても、使い続けていると目測ができるようになってきて、なんならオートフォーカスよりも早く合わせられるシーンも多い。そして「あの木まで3mくらいかな」とか考えて目測するのは、カメラの操作の原体験的な面白さもあり、悪くはない。「ライターを使わずに火をつける」ような面白さを意外と楽しめている。
世のライカユーザーが言ってるのはこういう楽しさなのかなあ、と少し分からなくもない気持ちになってきた。
とかいいつつ、オートフォーカスがあったら自分はそちらを使うだろうけれど。
 
 
ということで、いろいろ考えて思い切ってライカを買ってみたけど、結局は写りの良さ、PC不要な現像フロー、ブランドとしての見た目の良さに価値を感じているという結論。
若干しょうもない気がしなくもないが、まあ本心なので仕方ないね。